巨樹

もののけ度200%の強烈な気を放つ日本の巨樹10選 / 怖くて、威厳があって、逞しく、近づきがたい巨樹に会いにいきましょう!

巨樹

人間より遥かに長く生きてきた巨樹には生き抜いてきた歴史が樹形に現れています。そして、人間よりも遥かに大きな生きものである巨樹には巨体を支えながら生き続ける執念が見えることがあります。そんなとてつもない気を放つ日本の巨樹を紹介します。

巨樹には強烈な気を放つものが多い。近づいただけで感じられる気のパワーを感じる巨樹の見つけ方

巨樹にあまり興味がない人でも神社やお寺のご神木を見て、その大きさやパワーに圧倒されたことはないでしょうか。

今回はこれまで3,000本以上の巨樹を見てきた中で、日本に絞って、もののけのような強烈な気を放つ10本の巨樹を紹介したいと思います。

その前にまずは、気のパワーがすごい巨樹の見つけ方についてまとめてみました。

私が今まで会った日本の巨樹の中でもっとも怖かったのは「大久保のヒノキ」です。

大久保のヒノキ
推定樹齢800年   
樹高32m  
幹周り9.3m 
所在地:宮崎県東臼杵郡椎葉村下福良816
椎葉村は宮崎県の北西に位置する人口約3,000人の山間の集落です。 約96%が森林で占められた緑深い村。今も古式ゆかしい焼畑農法が続けられる棚田の美しい風景が広がっています。
天孫降臨の地といわれる高千穂からはクルマで1時間半弱の距離です。神々の伝説の残る美しい高千穂峡とともに訪れるといいと思います。
実際、私もそのようにして訪れました。
ただ、高千穂峡を出発するのが遅くなり、国道265号線に入ったころにはもう薄暗くなっていました。
クネクネと曲がりくねった細い国道の片側は岩壁、もう一方は遥か下方に川が見えるだけ。街灯もありません。民家も少なく、暗くなったら危ないなと思いながら進んでいきました。
十根川神社を過ぎて、木の近くにたどり着いたときはすでに夕闇になっていました。
クルマを停めて、人の気配のしない民家の前の細い畑道を歩いていくと古いお墓が2つ3つありました。そのときから徐々に怖くなっていたのですが、その先に無数の枝を大きく広げた圧倒的に大きなヒノキを見た瞬間から怖くて堪らなくなりました。
人智の及ばない神のような妖怪のような存在。すごい力を持っている生きもののような迫力です。
どんどん暗くなるし、それにつれてどんどん怖くなって、そのときは写真を撮るのもそこそこにして逃げるようにクルマに戻りました。
あまりにも怖くて、何かに取り憑かれそうで、頭の後ろを両手で払いながら般若心経を唱えて走ったことは今でも忘れられません。
ただし、この大久保のヒノキは今回の10選には含まれていません。
なぜかというと、その後に大きく変わってしまったからです。
何年かして再訪すると、そこには大きな駐車場やトイレが整備され、木の周囲もきれいに伐採されて大久保のヒノキだけが広場の中心に立っていました。
木自体も保存のために古い枝が切られていて、大きく枝を広げた樹形の面影もありません。晴天の昼間の訪問だったので、明るい日差しの下だったことも影響していたと思いますが、少しも怖くなかったのです。
木にとっていい環境にしたのかもしれませんが、えも言われぬ妖しい気は残念ながら霧散していたのが残念でなりませんでした。
そんなふうに公園化され、観光地のように拓かれて多くの人が訪れるようになると、神聖な雰囲気が薄れてしまう巨樹が多いです。
添川の根子杉
推定樹齢500年
樹高35m
幹周り14m
所在地:山形県鶴岡市添川字米山
この「添川の根子杉(そえがわのねっこすぎ)」も気のパワーがすごいと感じた巨樹です。
JR陸羽西線狩川駅の南へ7キロ、添川集落から2キロの山中に立っています。集落にある案内板を辿って細い杉の林道をクルマで行き、最後の案内板のあるところでクルマを停めて、杉林の中を15分ほど歩いていった山中にあります。
8本の木が合体した珍しい巨樹は今もひっそりとした山中に立っていて、その威厳は守られています。昼に行っても杉林の中は薄暗いので雰囲気はそのままで、もののけ度はかなり高いです。
ということで、人里離れている場所にあることは、気のパワーがすごい巨樹の重要な条件の1つになります。

藤原の伊吹
樹齢300年以上
樹高は11.5m
幹周り9.2m
所在地 : 愛媛県四国中央市富郷町津根山123

そして、強烈な気を感じるのは巨樹でも異様な形をしたものが多いです。
例えば、この「藤原の息吹」の苦悶するような幹からは壮絶な気配が漂ってきます。まっすぐに気持ちよく延びた幹よりも瘤だらけだったり、捻れた幹のほうが怖さが際立ちます。
そういう観点からいうと、ビャクシンのように幹が捻れたり瘤がある樹種を探すといいでしょう。
神奈川県鎌倉市の建長寺のビャクシンは有名ですが、全国には多くのビャクシン(イブキ、シンパクとも呼ばれています)がありますので、ググってみてください。とくに寺社に多いです。
というわけで、気のパワーがすごい巨樹の見つけ方のまとめです。
1. 観光地化、公園化していない場所にある
2. 木の周囲が人為的に拓かれ過ぎていない
3. 人里離れた場所にある
4. 訪れる人が少ないのがいい
5. 晴天の昼間より朝夕の時間帯に行く
6. ビャクシンのような異形が多い樹種
こんなパワーのすごい巨樹は近くに行くと、「私はここですよ」という気配を色濃く漂わせています。
山中にある巨樹だとはっきりと場所がわからないことが多いですが、探しているとこういう見えないシグナルを感じて、巨樹の場所に行き着けることがよくありました。
これは本当に不思議な体験です。
こういう話をすると、「木に呼ばれたんだね」とよく言われますが、何が原因で何の効果によって起きるのかはいまだにわかりません。
でも、こんな体験もなかなかできませんから、ぜひ、パワーのすごい巨樹探しにトライしてみてください。
では、私がそんなパワーを感じた巨樹10本をお届けします。
巨樹の場所はほとんど蚊が多いので、初夏から秋ぐらいまでは虫除けスプレーなどを携帯してください。朝夕だけでなく、昼間でも携帯必須です。

第10位 石を抱いたら離さないタコのお化け「松尾の石抱きアコウ」

1本目に紹介したいのは高知県土佐清水市の松尾漁港近くにある「石抱きアコウ」です。
近くには「松尾のアコウ」と呼ばれる巨樹があり、また、通称「青の洞窟」と呼ばれている松尾漁港 海老洞と花崗岩洞門では日本最大クラスの白山洞門があります。併せて訪ねると自然の造形美を目いっぱい感じられるのでオススメです。
この木を見たら誰もが妖怪変化だと思うのではないでしょうか。
それくらい異様な樹形と雰囲気を持っています。

根の部分にたくさんの石を抱いた姿はタコのようにも見えます。

一度抱いた石は絶対に離さない。そうしてどんどん石を抱きながら延びていっているようです。

もともとアコウの木はほかの木の枝などで芽生えて、気根を地上まで垂らしながら太く成長します。やがてはその芽生えの地となった親木を飲み込んで枯らしてしまいます。

そのため締め殺しの木ともいわれています。つまり、地上に根を丸出しにして下方へと成長するというのが特徴です。

でも、この木のように石を抱きながら成長するアコウはほかには見たことがありませんが、こんな石がゴロゴロとしている海岸を選んだためにこのような姿になったのでしょう。アコウの木の中でも異様な成長のしかたなのは確かです。

アコウはほかの木の枝の上などで発芽すると書きましたが、それはアカギやヤシなどの樹上でアコウの果実を食べた動物や鳥たちがそこでタネを含んだ糞を排出したことによる場合が多いからです。

こんなに妖怪めいた樹形は木は1位にしてもいいくらいなのですが、まだ樹齢が若く幹の太さも巨樹としてはまだまだだから10位としました。

この近くには「松尾のアコウ」という巨樹があります。おそらくその実を食べた動物によってここにタネが運ばれたのかもしれません。

松尾のアコウ
推定樹齢300年
樹高32m
幹周り9.3m
所在地 : 高知県土佐清水市松尾887

30メートルを超える樹高なので、とても迫力があります。

根元には大きな洞があるので、長く気根を延ばしながら、親木を締め殺して枯らしてしまったようです。

松尾天満宮の近くにあり、道を挟んだ向かい側には鰹節の工場があります。そのため、周囲にはその煙や匂いが漂っています。懐かしい感じがします。

ただ、夏は蚊が多いところなので、虫除けスプレーなどを携帯してください。

松尾天満宮からは海が見えますが、海の方へ進んでいくと、石抱きアコウの案内板がありますので、松尾天満宮を目指して行って、このアコウの巨樹から巡っていくほうがわかりやすいと思います。

石抱きアコウ
所在地 / 高知県土佐清水市松尾
アクセス / 高知龍馬空港から約3時間。足摺岬からクルマで約8分。
足摺岬から県道27号線で西へ3.5キロ。竈戸神社の先で27号線を下りて左折。500メートル進んだところ(天神バス停の手前)でクルマを停めて海岸へ降りていく。案内板が出ているので松尾のアコウから行くほうがわかりやすい。駐車場はないので松尾漁港にある駐車場を利用するといい。そこからは徒歩5分。また、海岸の道は歩きにくいのでトレッキングシューズなど歩きやすい靴がオススメです。

第9位 異世界への扉を守る番人は山の魔物の大猿「喜良市の十二本ヤス」

十二本ヤス
推定樹齢800年以上

樹高27m
幹周り6m
樹種 : ヒバ(ヒノキアスナロ)

所在地 :青森県五所川原市金木町喜良市
軽自動車しか通れないほどのヒバ林の林道に入り、鳥居のある場所に近づいていくといつも不思議な緊張感に捉われます。
もしかすると、それは十二本ヤスが発している’気’なのかもしれません。
平坦だけど峠道のようにクネクネとした細い林道。「対向車が来たらすれ違えるところまでかなり戻らないと」と思いながら進みますが、いつもほかのクルマに出会うことはありません。
そうして、緊張感が高まったあたりで、登山道のような階段と小さめの真っ赤な鳥居が見えてきます。
この鳥居を見ると安心感と畏怖感という相反する気持ちが生まれます。「また、ここまで来れた」という安堵とあの気配の凄い巨樹に対面するのだという畏れの気持ちなのでしょう。
この鳥居とその先の道を見るたび、「ここからは異世界になる」と感じてしまうのです。
そうして、木の前の空間に立つと、その空間は明らかに何か違う。というか、「何かがいる」と強く感じます。
霊感のようなものはまったくないのですが、この木の放つ神聖さがそうさせるのでしょうか。あるいは、大切に祀られてきたものに備わる神々しさのせいのなのでしょうか。どうしても、別世界のような空気を感じてしまいます。
とにかく強烈な何かを発しているようにしか見えない。怖いけれどそばにいたくなる不思議な巨樹です。
十二本ヤスという名前は魚突きのヤスの形に似ていることから付けられました。
かつて13本あるいは14本の太い枝が出ても自然に枯れて、必ず12本に戻るそうで、その不思議さから神の木と崇められてきたそうです。
樹種は青森ヒバで、青森ヒバを代表する巨樹です。ヒノキのように香りがよいこの木は浴槽や棺桶として重宝されてきました。
地上3メートルあたりで膨れ上がる幹。そこから12本に分岐して空に向かって伸びています。
殺してしまった山の魔物の大猿の祟りを恐れて、村人が植えたという伝説もありますが、そんな伝説にも頷いてしまいそうです。
特異な樹形と圧倒的な力強さ、妖気、神性……、訪れる人によって異なる気配が感じられると思います。
十二本ヤス
所在地 / 青森県五所川原市金木町喜良市
アクセス / 津軽鉄道の金木駅からクルマで約20分。県道2号線経由で東へ7.3キロ。十二本ヤスの3.5キロほど手前からは未舗装箇所のある林道になり、対向車とすれ違えない道幅なので注意。林道の沿いに鳥居と案内板があり、そこを数段登る。鳥居の手前に数台のクルマが停められるスペースがあります。

第8位 漲る底力を見せつけるように土をつかんだ「称名寺のシイノキ」

称名寺のシイノキ
推定樹齢700年
樹高14m
幹周り10.15m
所在地 : 宮城県亘理郡亘理町旭山1

称名寺は街中からほど近い場所に位置するとても心地のいいお寺です。高台にあるため見晴らしもよく、手入れの行き届いたお庭には季節の花々が咲いています。

巨樹を見るためでなくても、ちょっとしたお散歩にいい場所です。

大賀ハスの池。右の高台に見えるのが称名寺の墓地

手前には桜に囲まれた大きい池があります。

ここには7月下旬〜8月下旬にかけて、池いっぱいに古代ハスの花が咲きます。多くの人が訪れるハスの名所として知られています。

ハス池から階段を登ってきた山門

本堂。左手にシイノキ、その奥が墓地

階段を登って山門をくぐると、右手に本堂、正面にシイノキの巨樹が見えてきます。

左手にはお釈迦様の涅槃像もいて、秋には紅葉が美しい庭です。高台を吹き抜ける風も心地よく、とても穏やかな光景です。

けれども、このシイノキに近づいた途端に、その雰囲気は一変します。

1メートル高く盛られた土に露出した根は猛々しく、いかにも動き出しそう。生きものめいているというか、もののけのパワーを強く感じられます。

その逞しい根で盛土をしっかりと掴んで、八方に枝を広げる幹もただならぬ力強さを漂わせています。実際、古木にもかかわらず葉もよく繁っていますから、相当に元気な証拠でしょう。

何度もここを訪ねては何度も撮影しているのですが、どうしても時間をかけて四方八方から写真を撮りたくなる巨樹です。

幹に刻まれた800年の歳月。それは自然の造形なのですが、どうしたらこのような様相を呈すのでしょうか。

シイノキの自生の北限は福島県といわれています。また、盛り土に植えられていることから、この木は植えられたものだといわれています。おそらくはお寺の創建の頃に鎌倉武士の手によって持ち込まれたと伝えられています。

この育ち方から巨大な盆栽のようにも見えますが、針金を使って捻じ曲げたり、樹皮を剥いだりしてつくられるような盆栽ではなく、自然環境とこの木自身によってつくられた究極の盆栽といえるかもしれません。

どの角度で見ても、どの部分を見ても、見飽きることなく、1時間以上はいつも撮影し続けてしまいます。

矍鑠(かくしゃく)とした仙人。

東北を襲った震災のときもこのシイノキはびくともしなかったそうです。

境内にはほかに、樹齢300年以上というスダジイもあります。シイノキに比べ幹はひと回り小さいですが、こちらも魅力的です。

称名寺のシイノキ
所在地 / 青宮城県亘理郡亘理町旭山1
アクセス / JR常磐線の亘理駅からクルマで6分。しらかし通り経由で南南西へ2.4キロ。浄土宗朝日山称名寺の境内にあります。20台ほど停められる駐車場があります。

第7位 安易に近づくものを拒む。神聖な祈りの場に立つ「東の御嶽のガジュマル」

東の御嶽のガジュマル
樹齢600年以上
沖縄でいちばん古いガジュマルともいわれています
沖縄本島から海中道路と浜比嘉大橋を渡ってクルマで行けるのが浜比嘉島。島全体がパワースポットといわれていますが、もちろん海もとてもきれいです。
初めて訪れたのはタコ取り名人のお爺の撮影でした。かなりのご年配でしたが、素潜りでがんがん潜ってモリでタコを見事に突いていました。
そう、浜比嘉島の名物は「多幸めし」と書くタコ飯です。
そのお爺に絶対行ったほうがいいと勧められて訪れたのが、東の御嶽(あがりのうたき)でした。
旧暦の6月28日と8月28日に海の時化(しけ)を祈願するお祭りである「シヌグ祭り」が行なわれることからシヌグ堂とも呼ばれているようです。
また、御嶽とは沖縄では聖域とされる場所で祈りを捧げる場所として数多く存在します。東の御嶽の対をなす西の御嶽(いりぬうたき)も浜集落にあります。
御嶽とは石碑を指す場合もあるそうですが、御嶽は神聖な場所ですから、なかにはむやみに近づいてはならないものもあります。
大きなガジュマルのある空間もまた、安易な気持ちで入ってくる者を拒むような空気に満ちていました。
そう感じるのは御嶽という場所だからというのもありますが、おそらくガジュマルから漂う強い気のせいでしょう。
沖縄にはたくさんのガジュマルが育っていますが、この木はその中でももっとも古いのではないかといわれています。
ガジュマルは締め殺しの木ともいわれ、別の木の枝で発芽して、そこから気根を伸ばして根付き、どんどん親木を飲み込み、しまいには枯らしていきます。
そんな生きものとして執念、命への執着の強さがこの木の周りには漂っています。
明らかに空気感が違う場所。
浜比嘉島に数あるパワースポットの中でもイチ押しの東の御嶽をぜひ訪ねてみてください。
昼間でも薄暗く、蚊がたくさんいるので虫除けは必須です。
東の御嶽(シヌグ堂)のガジュマル
所在地 / 沖縄県うるま市勝連浜229
アクセス / 那覇空港からクルマで1時間10分。うるま市の海中道路から浜比嘉島の浜比嘉大橋を渡っていきます。浜比嘉大橋を渡ったところで左右に分かれた道を右へ。少し進むと左側に「東の御獄(シヌグ堂)」と書かれた小さな立て看板があります。看板の前の細い通路がを70メートルほど歩いて中へ。数台停められる駐車場あり。満車の場合には浜比嘉大橋の隣に無料駐車場があります。

 

第6位 清められた空間に君臨する和みのもののけ「古里の御神楽杉」

古里の御神楽杉
推定樹齢400年以上
樹高25m
幹周り7.6m
所在地 : 岩手県釜石市橋野町第27地割
県道35号線を右折すると山里の集落に続く道は細くなり、1キロほど進むと、古い石積みの棚田が見えてきました。
これは「石積畦畔(いしづみけいはん)」といって江戸時代に始まった棚田のつくり方だそうで、日本の原風景を感じる景色が広がっています。大きな説明板も立っています。
県道35号をさらに10キロ行った先に世界遺産の「橋野高炉跡・橋野鉄鉱山」がありますが、その時代からの石工さんが多くいたことでこの技術が伝えられたようです。
そんな集落の中の道を登っていき、民家も田んぼも見えなくなり、最後の数軒の民家の固まっている道路脇に「古里の御神楽杉」という標柱が立っています。
そこから歩いていくと民家の庭先のようなところに「古里の御神楽杉 順路」という小さな案内板があるので、そこを入っていきます。

中心の大きな木が御神楽杉。順路は左手前から

杉木立の中へ入っていくと若い杉に囲まれた祠のある空間が見えてきます。
その空間を掌握する主のように太く大きな杉がたくさんの枝を広げています。
杉は真っ直ぐに伸びることから「直ぐ木」、「すぎ」と名付けられました。けれども一方で、根元の近くから多くの枝を出す杉もあります。それらは雪深い北陸や東北などで多く見られます。
杉は1種類なのですが、それらはウラスギ、アシウスギなどと呼ばれて、真っ直ぐに伸びるオモテスギと区別されています。
この御神楽杉もそんなウラスギの仲間でしょうか。
圧倒されるのは幹のように太く逞しい枝です。
それが湾曲しながら天に向かって伸びている様相が力強さを感じさせる所以に違いないです。
幹自体には古木めいた皺や樹皮の剥がれも少なく、いまだ若々しさが漲った感じもします。
そして、何よりもこの空間はいつも清められています。
集落が終わる山との境目に位置しながらも、いつ訪れても草もなく、とてもきれいに整えられています。
神社は宮司さんが神が宿る場所なので毎朝掃き清めることによって神聖さが保たれるのだと聞いたことがありますが、ここも同じように集落の人が大切に守っているせいでしょう。
御神楽杉の気のパワーとこの木とこの場所を守り続けている人々の思いがこの異空間をつくりあげているようです。
巨樹にはもののけのような気配を感じますが、それよりも別次元の癒しをこの空間は持っていると感じました。
一度、この木の下で寝転んでみたとき、知らない間に眠ってしまい、30分も経っていて驚いたことがありました。そして、起きたときには体がとても軽くなった感じがしました。
御神楽杉という名前の謂れははっきりとはわかりませんが、一説には、この木の姿が神楽奏者に似ているからとも言われています。
この木の場合はきっと、もののけの中でも楽しくてやさしい妖怪なのでしょう。
不思議な気配を感じるこの空間に癒されにぜひ行ってみてください。
古里の御神楽杉
所在地 / 岩手県釜石市橋野町第27地割
アクセス / JR釜石駅からクルマで35分。国道283号から国道45号へ。県道33号線経由で北東へ24キロ。1.4キロほど手前(お地蔵さんが立っている)で右折して古里集落へ。民家の間の道を曲がるところに標柱があります。駐車場はないので注意してください。

第5位 最大は2.5メートル、多くの乳房を下げた御神木「岩倉の乳房杉」

岩倉の乳房杉
推定樹齢800年
樹高38m
幹周り11m
所在地 : 島根県隠岐郡隠岐の島町布施
銚子ダムを越えて、隠岐島の最高峰・大満寺山(標高608メートル)の登山口を目指していくと、細い林道に積もった雪でかなり注意して運転しないとならなくなりました。
クネクネと曲がる道をゆっくりと進みながら20分以上かけて進むと突然、左側にりっぱな鳥居が見えてきました。
クルマを停めて降り立つと、鳥居の奥にとても杉とは思えない巨樹が……。
自然の造形物とは思えない乳房杉(ちちすぎ)がそびえ立っていました。
とぐろを巻いたような瘤と、長さ2.5メートルに達する下垂根(かすいこん)。
下垂根とはイチョウの木によく見られる垂れ下がった乳房状の気根のこと。実際、この木には24個の乳房状の下垂根があることから「乳房杉」という名前が付けらました。

もののけのように見えるのは巻いた瘤とこの乳房状の下垂根のせいでしょう。

もはや、杉とか木という印象より、不思議な形の生きものにしか見えません。

道は険しいですが、クルマで目の前まで行けていきなり、こんな摩訶不思議な木を見たらおそらく誰もが感嘆をするに違いありません。

手前にりっぱな鳥居が立っているのは大満寺山の御神木として大切に祀られているためです。毎年4月23日には祭りが開催されています。

また、岩倉というのはこの木が大きな岩の上に立っているから付けられた名前で、土壌がないためたくさんの気根から養分を取っているといわれています。

雨の日に訪れると霧がかかって、いかにもこの森の神のように見えます。

なお、隠岐島には三代杉といって3本の杉の巨樹があります。その中でもっとももののけ度が高く畏怖感が強いのがこの乳房杉です。

八百杉とかぶら杉も雄大で素晴らしいので、興味のある方はこちらへも立ち寄ってみてください。

岩倉の乳房杉
所在地 / 島根県隠岐郡隠岐の島町布施
アクセス / 境港から隠岐島へはフェリーまたは高速船。おき西郷港フェリーターミナルからクルマで36分。北へ約14キロ。国道485号線を7キロほど北へ。右折して県道316号で銚子ダム方面へ。銚子ダムを越えると道幅が狭くカーブの多い道なので注意。林道沿いの鳥居の奥にあります。駐車場はありませんので注意。

第4位 怖気づいてしまうほど見るものの心をえぐる気を放つ「命主社のムクノキ」

命主社のムクノキ
推定樹齢1,000年
樹高23m
幹周り5.9m
所在地:島根県出雲市大社町杵築東真名井  命主社境内
私にとって、怖さのインパクトがいちばん強い木がこのムクノキです。
命主社(いのちぬしのやしろ)という出雲大社の摂社の境内に立っています。
境内も狭く、この木自体もそれほど巨大ではありません。
それなのに、見るものの心をえぐるような強烈な気を放っています。おそらく一度見たら忘れられない。そして、一度は見に行ってほしい巨樹です。
出雲大社は全国的にパワースポットと知られていますが、この神さびたこのムクノキがあるため、私にとってはこちらの小さな御社のほうがパワースポットなのです。
ここに祀られているのは「神皇産霊神(かみむすびのかみ)」という神様。古事記によれば世界に天地が生まれたときに姿を現した神様のひとり。命主社は命を司る慈悲深い神が祀られているそうです。
露出した根にごつごつとした幹。
そこから天に向かって伸びて、青々とした葉をたくさん持つ枝を広げています。
怖さが先立ちますが、それを堪えながらそばにいるととても安心できるいい空間に変わる。近づてくる人間たちを睥睨しながら、品定めして、その人間の行いによっては見え方が変わってくるのかもしれません。
帰るまでに、あなたにとってこの木がどう見えるのか、試してみてください。
命主社のムクノキ
所在地 / 島根県出雲市大社町杵築東真名井  命主社境内
アクセス / 出雲大社の東隣。クルマで2分。出雲大社の銅の鳥居の手前を右折。北島国造館を左手に見ながら進むと案内板が見えます。命主社境内の隣に駐車場(5台程度)はあります。

第3位 門の外は現実世界、内側は見えないものに支配された異世界「崇元寺石門のガジュマル」

崇元寺石門のガジュマル
樹高12m
幹周り10m
所在地:沖縄県那覇市泊1丁目9−1

那覇市内の中でも国際通りに次ぐ繁華街の松山からもほど近い場所に、このガジュマルの木はあります。

そんな場所にありながら外の現実世界と隔絶する異様な気を放っているのがこの巨樹の特徴であり、最大の魅力だと思います。
そのガジュマルの所在地もまた、タイムスリップしたような空間です。
クルマも人も行き交うにぎやかな通りにローソンがあり、その前に突如という感じで壮大な石造りの門が現れます。それが旧崇元寺の石門です。
崇元寺(そうげんじ)の創建は1527年ごろ。琉球王朝時代の国廟(こくびょう)で、代々の国王の霊を祀る場所であり、神霊へ捧げる祭祀などが行われました。
かつては正廟を中心に中国風の伽藍が建ち並び、正廟、石門などが国宝だったそうです。
ですが、沖縄戦で消失し、戦後に石門だけが修復されました。

なので、この門の中には現在は建物は何もありません。戦火でも消失しなかった下馬碑だけが残されています。

市街地にこんなどっしりとした石門がいきなり現れるので、初めて見たときはまずこの石門に驚かされ、強い気を感じました。
何度もいいますが、向かいはローソンですから、びっくりです!
この門だけでも一見の価値ありです。
そして、その石門を入るとかつて伽藍が建ち並んでいた空間にこのガジュマルだけがあるのです。
門の外と中では明らかに空気が違います。
道路を行き交うクルマの音、人の声、コンビニの音さえも全部吸収して、シーンと静まり返っています。
この空間はガジュマルの強大な力によって支配されているように思えました。
気根を伸ばして太くなっていくのがガジュマルです。この木は石段の上に芽生えて、地面を求めて石段を這っていったのでしょう。その凄まじい過程が見えるのも不気味感を増しています。
異世界への扉のような石門をくぐって、ガジュマルのもののけパワーを感じてみてください。
昼間でも薄暗く、蚊がたくさんいるので虫除けは必須です。

崇元寺石門のガジュマル
所在地 / 沖縄県那覇市泊1丁目9−1
アクセス / えちぜん鉄道勝山永平寺線「ゆいれーる牧志駅より徒歩7分。クルマで2分。北西へ800メートル。クルマがない方でも行きやすいです。専用駐車場はありませんが、付近にはコインパーキングが多数あります。

 

第2位 50年前に消えた集落を見守る白龍のような「岩屋の大杉」

岩屋の大杉
推定樹齢1,200年
樹高33m
幹周り17m
所在地:
福井県勝山市北郷町11 岩屋観音

岩屋川沿いの道路を進んでいくと、民家はまったくなくなり、たどり着いたキャンプ場も今ではまったく稼働していないように静まり返っています。

その先には少し民家があるようですが、先には誰もいないという気配がしてその先へ行く感じにはなりません。

この福井県の山間の集落「岩屋」は50年以上前になくなってしまったからです。

炭焼きを生業としていた集落には200人以上暮らしていましたが、昭和38年の記録的な豪雪により廃村になりました。

その消えた故郷「岩屋集落」を見守り続けるのがこの杉の御神木です。

そんなストーリーをNHKの番組で見て、ずっと来てみたいと思ってた場所でした。

クルマを停めた向かいに見える岩屋稲荷神社の鳥居をくぐって奥へと進んでいきます。

すぐに岩屋観音という石碑が山側に見えてきます。

静かな境内に響くのは手水(ちょうず)の水の音だけ。清らかな水の音が心地よく響いています。

さらに奥へと続く境内には大きな杉が立ち並んでいて厳かな雰囲気がしています。

そして、その向こうに素朴な本殿が見えてきます。

かつて岩屋集落があったころには、例祭では近隣からも参拝者が訪れて大いに賑わったそうです。

そこをさらに進んでいくと、いくつもの首を持つもののけのような杉が突然、姿を現します。

推定樹齢は1,200年。

幹は根元から5本に分かれた合体木といわれ、樹高は33メートル。人けのない境内の奥に鎮座しています。

「象の鼻のように垂れたもっとも太い幹が地面に着くと辺りは海になる」と集落では言い伝えられてきました。

また、かつては12本の幹があり、その昔、ある者が6本を切ったところ、白竜が現れ残りの6本に巻き付いて守ったという伝説も残っています。それ以来、根元に白龍が棲みついているともいわれています。

私には白龍が棲みついているというより、龍そのものにも見えました。5本の太い首をのた打つように伸ばした龍のようです。

誰もいないとわかっているためによけいにそんな妄想を抱いてしまうのかもしれません。

けれども、かつての村人たちが今もこの木に会いにやってくるそうです。人々は季節ごとに掃除や手入れをしに来るのです。

人々が来るのを待ちながら、白龍は人々の代わりに村を守っているようでした。

岩屋の大杉
所在地 / 福井県勝山市北郷町11 岩屋観音
アクセス /えちぜん鉄道勝山永平寺線の小舟渡駅よりクルマで16分。北へ5.4キロ。県道168号線から左折して 国道416号/県道17号に入る。1キロ先を右折して北へ。岩屋川添いを岩谷オートキャンプ場の駐車場へ。そこにクルマを停めて向かいの岩屋稲荷神社(岩屋観音)の参道を登って奥に進んでください。

第1位 山里の孤高の木に見えて、内部は驚愕の姿で忘れられなくなる「沢尻の大ヒノキ」

沢尻の大ヒノキ
推定樹齢800年
樹高34.3m
幹周り9.8m
所在地:福島県いわき市川前町上桶売上沢尻地内

この巨樹は山里のはずれに静かに佇むまさに孤高の存在です。

大ヒノキと呼ばれていますが、じつはサワラというヒノキの近種です。サワラとしては日本最大だそうです。

私がいちばん好きで、訪れた人全員が感動で泣いてしまうエジンバラの枝垂れイチイによく似ています。

エジンバラの木も外側からは緑の小山のようにしか見えないのですが、ものすごい数の枝垂れた枝が生えていました。

同じようにこの木も外側から見ると形のいい静かな佇まいなのですが、木の内側に入って見上げると圧倒的な枝の数に驚かされます。

それはもう大迫力。

内部を見た途端に驚愕すること間違いなしです。

ものすごく強い気を放っていて怖い感じもします。「いったいどうしてこんなにも枝を生やしているの?」と木に聞きたくなってきます。

外側は普通に見えて、内側にすごいパワーを隠している。それがこの巨樹を第1位とした理由です。

隠し持ったもののけのような気配。それはこの木の下に立って、見上げることで初めて実感できます。

村外れにポツンと佇むこの木の存在はあまり知られていませんが、その圧倒的な気のパワーは絶大です。

もののけ度第1位の気配の強さをぜひ体験しに行ってみてください。

木の前までクルマで行けますし、道も危険ではなく、わかりやすいです。虫もあまりいませんしね。

沢尻の大ヒノキ
所在地 / 福島県いわき市川前町上桶売上沢尻地内
アクセス /JR夏井駅よりクルマで10分。東へ4.1キロ。県道41号/県道66号を100メートル行ったところで左折。1.6キロ先で右折し、2.2キロ先(曲がり角に標柱があります)を左折。駐車場はありませんが、すぐ前に停められるスペースがあります。

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