人間より遥かに長く生きてきた巨樹には生き抜いてきた歴史が樹形に現れています。そして、人間よりも遥かに大きな生きものである巨樹には巨体を支えながら生き続ける執念が見えることがあります。そんなとてつもない気を放つ日本の巨樹を紹介します。
- 巨樹には強烈な気を放つものが多い。近づいただけで感じられる気のパワーを感じる巨樹の見つけ方
- 第10位 石を抱いたら離さないタコのお化け「松尾の石抱きアコウ」
- 第9位 異世界への扉を守る番人は山の魔物の大猿「喜良市の十二本ヤス」
- 第8位 漲る底力を見せつけるように土をつかんだ「称名寺のシイノキ」
- 第7位 安易に近づくものを拒む。神聖な祈りの場に立つ「東の御嶽のガジュマル」
- 第6位 清められた空間に君臨する和みのもののけ「古里の御神楽杉」
- 第5位 最大は2.5メートル、多くの乳房を下げた御神木「岩倉の乳房杉」
- 第4位 怖気づいてしまうほど見るものの心をえぐる気を放つ「命主社のムクノキ」
- 第3位 門の外は現実世界、内側は見えないものに支配された異世界「崇元寺石門のガジュマル」
- 第2位 50年前に消えた集落を見守る白龍のような「岩屋の大杉」
- 第1位 山里の孤高の木に見えて、内部は驚愕の姿で忘れられなくなる「沢尻の大ヒノキ」
巨樹には強烈な気を放つものが多い。近づいただけで感じられる気のパワーを感じる巨樹の見つけ方
巨樹にあまり興味がない人でも神社やお寺のご神木を見て、その大きさやパワーに圧倒されたことはないでしょうか。
今回はこれまで3,000本以上の巨樹を見てきた中で、日本に絞って、もののけのような強烈な気を放つ10本の巨樹を紹介したいと思います。
その前にまずは、気のパワーがすごい巨樹の見つけ方についてまとめてみました。
私が今まで会った日本の巨樹の中でもっとも怖かったのは「大久保のヒノキ」です。
大久保のヒノキ 推定樹齢800年 樹高32m 幹周り9.3m 所在地:宮崎県東臼杵郡椎葉村下福良816

添川の根子杉
推定樹齢500年
樹高35m
幹周り14m
所在地:山形県鶴岡市添川字米山
2. 木の周囲が人為的に拓かれ過ぎていない
3. 人里離れた場所にある
4. 訪れる人が少ないのがいい
5. 晴天の昼間より朝夕の時間帯に行く
6. ビャクシンのような異形が多い樹種
第10位 石を抱いたら離さないタコのお化け「松尾の石抱きアコウ」

根の部分にたくさんの石を抱いた姿はタコのようにも見えます。
一度抱いた石は絶対に離さない。そうしてどんどん石を抱きながら延びていっているようです。
もともとアコウの木はほかの木の枝などで芽生えて、気根を地上まで垂らしながら太く成長します。やがてはその芽生えの地となった親木を飲み込んで枯らしてしまいます。
そのため締め殺しの木ともいわれています。つまり、地上に根を丸出しにして下方へと成長するというのが特徴です。
でも、この木のように石を抱きながら成長するアコウはほかには見たことがありませんが、こんな石がゴロゴロとしている海岸を選んだためにこのような姿になったのでしょう。アコウの木の中でも異様な成長のしかたなのは確かです。
アコウはほかの木の枝の上などで発芽すると書きましたが、それはアカギやヤシなどの樹上でアコウの果実を食べた動物や鳥たちがそこでタネを含んだ糞を排出したことによる場合が多いからです。
こんなに妖怪めいた樹形は木は1位にしてもいいくらいなのですが、まだ樹齢が若く幹の太さも巨樹としてはまだまだだから10位としました。
この近くには「松尾のアコウ」という巨樹があります。おそらくその実を食べた動物によってここにタネが運ばれたのかもしれません。
30メートルを超える樹高なので、とても迫力があります。
根元には大きな洞があるので、長く気根を延ばしながら、親木を締め殺して枯らしてしまったようです。
松尾天満宮の近くにあり、道を挟んだ向かい側には鰹節の工場があります。そのため、周囲にはその煙や匂いが漂っています。懐かしい感じがします。
ただ、夏は蚊が多いところなので、虫除けスプレーなどを携帯してください。
松尾天満宮からは海が見えますが、海の方へ進んでいくと、石抱きアコウの案内板がありますので、松尾天満宮を目指して行って、このアコウの巨樹から巡っていくほうがわかりやすいと思います。
所在地 / 高知県土佐清水市松尾
アクセス / 高知龍馬空港から約3時間。足摺岬からクルマで約8分。
足摺岬から県道27号線で西へ3.5キロ。竈戸神社の先で27号線を下りて左折。500メートル進んだところ(天神バス停の手前)でクルマを停めて海岸へ降りていく。案内板が出ているので松尾のアコウから行くほうがわかりやすい。駐車場はないので松尾漁港にある駐車場を利用するといい。そこからは徒歩5分。また、海岸の道は歩きにくいのでトレッキングシューズなど歩きやすい靴がオススメです。
第9位 異世界への扉を守る番人は山の魔物の大猿「喜良市の十二本ヤス」

所在地 / 青森県五所川原市金木町喜良市
アクセス / 津軽鉄道の金木駅からクルマで約20分。県道2号線経由で東へ7.3キロ。十二本ヤスの3.5キロほど手前からは未舗装箇所のある林道になり、対向車とすれ違えない道幅なので注意。林道の沿いに鳥居と案内板があり、そこを数段登る。鳥居の手前に数台のクルマが停められるスペースがあります。
第8位 漲る底力を見せつけるように土をつかんだ「称名寺のシイノキ」
称名寺は街中からほど近い場所に位置するとても心地のいいお寺です。高台にあるため見晴らしもよく、手入れの行き届いたお庭には季節の花々が咲いています。
巨樹を見るためでなくても、ちょっとしたお散歩にいい場所です。

大賀ハスの池。右の高台に見えるのが称名寺の墓地
手前には桜に囲まれた大きい池があります。
ここには7月下旬〜8月下旬にかけて、池いっぱいに古代ハスの花が咲きます。多くの人が訪れるハスの名所として知られています。

ハス池から階段を登ってきた山門

本堂。左手にシイノキ、その奥が墓地
階段を登って山門をくぐると、右手に本堂、正面にシイノキの巨樹が見えてきます。
左手にはお釈迦様の涅槃像もいて、秋には紅葉が美しい庭です。高台を吹き抜ける風も心地よく、とても穏やかな光景です。
けれども、このシイノキに近づいた途端に、その雰囲気は一変します。
1メートル高く盛られた土に露出した根は猛々しく、いかにも動き出しそう。生きものめいているというか、もののけのパワーを強く感じられます。
その逞しい根で盛土をしっかりと掴んで、八方に枝を広げる幹もただならぬ力強さを漂わせています。実際、古木にもかかわらず葉もよく繁っていますから、相当に元気な証拠でしょう。
何度もここを訪ねては何度も撮影しているのですが、どうしても時間をかけて四方八方から写真を撮りたくなる巨樹です。
幹に刻まれた800年の歳月。それは自然の造形なのですが、どうしたらこのような様相を呈すのでしょうか。
シイノキの自生の北限は福島県といわれています。また、盛り土に植えられていることから、この木は植えられたものだといわれています。おそらくはお寺の創建の頃に鎌倉武士の手によって持ち込まれたと伝えられています。
この育ち方から巨大な盆栽のようにも見えますが、針金を使って捻じ曲げたり、樹皮を剥いだりしてつくられるような盆栽ではなく、自然環境とこの木自身によってつくられた究極の盆栽といえるかもしれません。
どの角度で見ても、どの部分を見ても、見飽きることなく、1時間以上はいつも撮影し続けてしまいます。
矍鑠(かくしゃく)とした仙人。
東北を襲った震災のときもこのシイノキはびくともしなかったそうです。
境内にはほかに、樹齢300年以上というスダジイもあります。シイノキに比べ幹はひと回り小さいですが、こちらも魅力的です。
所在地 / 青宮城県亘理郡亘理町旭山1
アクセス / JR常磐線の亘理駅からクルマで6分。しらかし通り経由で南南西へ2.4キロ。浄土宗朝日山称名寺の境内にあります。20台ほど停められる駐車場があります。
第7位 安易に近づくものを拒む。神聖な祈りの場に立つ「東の御嶽のガジュマル」

所在地 / 沖縄県うるま市勝連浜229
アクセス / 那覇空港からクルマで1時間10分。うるま市の海中道路から浜比嘉島の浜比嘉大橋を渡っていきます。浜比嘉大橋を渡ったところで左右に分かれた道を右へ。少し進むと左側に「東の御獄(シヌグ堂)」と書かれた小さな立て看板があります。看板の前の細い通路がを70メートルほど歩いて中へ。数台停められる駐車場あり。満車の場合には浜比嘉大橋の隣に無料駐車場があります。
第6位 清められた空間に君臨する和みのもののけ「古里の御神楽杉」

中心の大きな木が御神楽杉。順路は左手前から




所在地 / 岩手県釜石市橋野町第27地割
アクセス / JR釜石駅からクルマで35分。国道283号から国道45号へ。県道33号線経由で北東へ24キロ。1.4キロほど手前(お地蔵さんが立っている)で右折して古里集落へ。民家の間の道を曲がるところに標柱があります。駐車場はないので注意してください。
第5位 最大は2.5メートル、多くの乳房を下げた御神木「岩倉の乳房杉」
もののけのように見えるのは巻いた瘤とこの乳房状の下垂根のせいでしょう。
もはや、杉とか木という印象より、不思議な形の生きものにしか見えません。
道は険しいですが、クルマで目の前まで行けていきなり、こんな摩訶不思議な木を見たらおそらく誰もが感嘆をするに違いありません。
手前にりっぱな鳥居が立っているのは大満寺山の御神木として大切に祀られているためです。毎年4月23日には祭りが開催されています。
また、岩倉というのはこの木が大きな岩の上に立っているから付けられた名前で、土壌がないためたくさんの気根から養分を取っているといわれています。
雨の日に訪れると霧がかかって、いかにもこの森の神のように見えます。
なお、隠岐島には三代杉といって3本の杉の巨樹があります。その中でもっとももののけ度が高く畏怖感が強いのがこの乳房杉です。
八百杉とかぶら杉も雄大で素晴らしいので、興味のある方はこちらへも立ち寄ってみてください。

所在地 / 島根県隠岐郡隠岐の島町布施
アクセス / 境港から隠岐島へはフェリーまたは高速船。おき西郷港フェリーターミナルからクルマで36分。北へ約14キロ。国道485号線を7キロほど北へ。右折して県道316号で銚子ダム方面へ。銚子ダムを越えると道幅が狭くカーブの多い道なので注意。林道沿いの鳥居の奥にあります。駐車場はありませんので注意。
第4位 怖気づいてしまうほど見るものの心をえぐる気を放つ「命主社のムクノキ」

所在地 / 島根県出雲市大社町杵築東真名井 命主社境内
アクセス / 出雲大社の東隣。クルマで2分。出雲大社の銅の鳥居の手前を右折。北島国造館を左手に見ながら進むと案内板が見えます。命主社境内の隣に駐車場(5台程度)はあります。
第3位 門の外は現実世界、内側は見えないものに支配された異世界「崇元寺石門のガジュマル」
那覇市内の中でも国際通りに次ぐ繁華街の松山からもほど近い場所に、このガジュマルの木はあります。
なので、この門の中には現在は建物は何もありません。戦火でも消失しなかった下馬碑だけが残されています。

崇元寺石門のガジュマル
所在地 / 沖縄県那覇市泊1丁目9−1
アクセス / えちぜん鉄道勝山永平寺線「ゆいれーる牧志駅より徒歩7分。クルマで2分。北西へ800メートル。クルマがない方でも行きやすいです。専用駐車場はありませんが、付近にはコインパーキングが多数あります。
第2位 50年前に消えた集落を見守る白龍のような「岩屋の大杉」
岩屋川沿いの道路を進んでいくと、民家はまったくなくなり、たどり着いたキャンプ場も今ではまったく稼働していないように静まり返っています。
その先には少し民家があるようですが、先には誰もいないという気配がしてその先へ行く感じにはなりません。
この福井県の山間の集落「岩屋」は50年以上前になくなってしまったからです。
炭焼きを生業としていた集落には200人以上暮らしていましたが、昭和38年の記録的な豪雪により廃村になりました。
その消えた故郷「岩屋集落」を見守り続けるのがこの杉の御神木です。
そんなストーリーをNHKの番組で見て、ずっと来てみたいと思ってた場所でした。
クルマを停めた向かいに見える岩屋稲荷神社の鳥居をくぐって奥へと進んでいきます。
すぐに岩屋観音という石碑が山側に見えてきます。
静かな境内に響くのは手水(ちょうず)の水の音だけ。清らかな水の音が心地よく響いています。
さらに奥へと続く境内には大きな杉が立ち並んでいて厳かな雰囲気がしています。
そして、その向こうに素朴な本殿が見えてきます。
かつて岩屋集落があったころには、例祭では近隣からも参拝者が訪れて大いに賑わったそうです。
そこをさらに進んでいくと、いくつもの首を持つもののけのような杉が突然、姿を現します。
推定樹齢は1,200年。
幹は根元から5本に分かれた合体木といわれ、樹高は33メートル。人けのない境内の奥に鎮座しています。
「象の鼻のように垂れたもっとも太い幹が地面に着くと辺りは海になる」と集落では言い伝えられてきました。
また、かつては12本の幹があり、その昔、ある者が6本を切ったところ、白竜が現れ残りの6本に巻き付いて守ったという伝説も残っています。それ以来、根元に白龍が棲みついているともいわれています。
私には白龍が棲みついているというより、龍そのものにも見えました。5本の太い首をのた打つように伸ばした龍のようです。
誰もいないとわかっているためによけいにそんな妄想を抱いてしまうのかもしれません。
けれども、かつての村人たちが今もこの木に会いにやってくるそうです。人々は季節ごとに掃除や手入れをしに来るのです。
人々が来るのを待ちながら、白龍は人々の代わりに村を守っているようでした。

所在地 / 福井県勝山市北郷町11 岩屋観音
アクセス /えちぜん鉄道勝山永平寺線の小舟渡駅よりクルマで16分。北へ5.4キロ。県道168号線から左折して 国道416号/県道17号に入る。1キロ先を右折して北へ。岩屋川添いを岩谷オートキャンプ場の駐車場へ。そこにクルマを停めて向かいの岩屋稲荷神社(岩屋観音)の参道を登って奥に進んでください。
第1位 山里の孤高の木に見えて、内部は驚愕の姿で忘れられなくなる「沢尻の大ヒノキ」
この巨樹は山里のはずれに静かに佇むまさに孤高の存在です。
大ヒノキと呼ばれていますが、じつはサワラというヒノキの近種です。サワラとしては日本最大だそうです。
私がいちばん好きで、訪れた人全員が感動で泣いてしまうエジンバラの枝垂れイチイによく似ています。
エジンバラの木も外側からは緑の小山のようにしか見えないのですが、ものすごい数の枝垂れた枝が生えていました。
同じようにこの木も外側から見ると形のいい静かな佇まいなのですが、木の内側に入って見上げると圧倒的な枝の数に驚かされます。
それはもう大迫力。
内部を見た途端に驚愕すること間違いなしです。
ものすごく強い気を放っていて怖い感じもします。「いったいどうしてこんなにも枝を生やしているの?」と木に聞きたくなってきます。
外側は普通に見えて、内側にすごいパワーを隠している。それがこの巨樹を第1位とした理由です。
隠し持ったもののけのような気配。それはこの木の下に立って、見上げることで初めて実感できます。
村外れにポツンと佇むこの木の存在はあまり知られていませんが、その圧倒的な気のパワーは絶大です。
もののけ度第1位の気配の強さをぜひ体験しに行ってみてください。
木の前までクルマで行けますし、道も危険ではなく、わかりやすいです。虫もあまりいませんしね。
沢尻の大ヒノキ
所在地 / 福島県いわき市川前町上桶売上沢尻地内
アクセス /JR夏井駅よりクルマで10分。東へ4.1キロ。県道41号/県道66号を100メートル行ったところで左折。1.6キロ先で右折し、2.2キロ先(曲がり角に標柱があります)を左折。駐車場はありませんが、すぐ前に停められるスペースがあります。
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