レインフォレストが大好きで屋久島やカナダ、コスタリカの雨林を巡ってきましたが、今回、圧倒的に苔だらけの究極のレインフォレストを見つけました。長く伸びた苔は2mに達します。世界で唯一の針葉樹の温帯雨林とその森に生きる巨樹を紹介します。
氷河と万年雪の山、全米で10指に入る美しいビーチ、世界で唯一針葉樹の温帯雨林。森と海と山の3つが揃った世界遺産
シアトルに仕事で出かけるので、その近くに巨樹はないかと調べているときでした。
シアトル郊外のオリンピック半島に「オリンピック国立公園」というのがあり、その中に何本かの巨樹があることがわかりました。
オリンピック国立公園には温帯雨林と氷河と万年雪をたたえた山脈、「全米で最も美しいビーチトップ10」に選ばれた海岸があります。森と山と海、贅沢にも3つが揃った”3 Parks in One”いわれる4,000平方キロを占める広大な公園です。
巨樹があるのは温帯雨林のホー・レインフォレストとクイノールト・レインフォレストでした。
ホー・レインフォレストの中には30分〜1時間で回れるショートトレイルが2つ。The Hall of Mosses Trail (1.2キロ)とThe Spruce Nature Trail (1.9キロ)があります。
クイノールト・レインフォレストも温帯雨林で交差するいくつかのトレイルがあります。森の規模はホー・レインフォレストほど大きくありませんが。ここには世界一大きいといわれるスプルース(トウヒ)やダグラス・ファー(モミ)の巨樹がありました。
オリンポス山やホー湖を目指すロングトレイルも2つあり、それらは30キロ近くあります。
まずは「苔だらけの道(The Hall of Mosses Trail)」から歩こうと宿泊していたフォークスのモーテルを出発しようすると、外はあいにくの雨。
ですが、モーテルのマネージャーは「森に行くには最高の天気だね。君たちはツイてるよ」というのです。
写真を撮る際、晴天だとコントラストが強過ぎますし、曇りだとフラットな写真になります。そして、森は乾いているとあまりきれいに撮れません。
小雨が降ったり止んだりするその日の天気はベストだったと森に着いてから実感することになりました。
ホー・レインフォレストへのアクセス
シアトル・タコマ空港でレンタカーを借りて、フェリーでオリンピック半島へ渡るのがオススメです。
①シアトル・タコマ国際空港からシアトル市内まではクルマで約20分。インターステート5号線( Interstate 5)経由でや北へ約24キロ。
②シアトルからエドモンズ・フェリーターミナルまではクルマで約25分。インターステート5号線と104号線経由でさらに北へ28キロ。
③エドモンズ・キングストン・フェリーでキングストンへ。所要時間30分。詳細
このルートは人気なので混在します。乗船待ちの列ができることもしばしば。時刻表で調べて早めの到着がおすすめです。
④キングストンからフォークスまではクルマで約2時間半。ハイウェイ 104とオリンピック国立公園沿いのハイウェイ101で、ポート・エンジェルスを経由して188キロ。
⑤フォークスからポー・レイン・フォレストへはクルマで約16分。 ハイウェイ101で南へ約20キロ。
見渡す限りコケだけらけ。2mの長い苔が揺れる幻想的なレインフォレストは圧巻
森に向かうアッパー・ホウ・ロードでは何頭ものエルクに会いました。ホー川の水を飲んだり、道路脇の草を食べていました。人にもクルマにも慣れているようでエルクはのんびりと道を渡っていきます。
やがて、私たちは「苔だらけの道」の駐車場にクルマを停めて、トレイルを歩き始めました。
トレイルに入ってすぐのところにはクレソンが生えた澄んだ水の小川がありました。そして、木に巻き付いた苔は屋久島やコスタリカ、クイーン・シャーロットより長めで、密集率も高いと感じました。
ほとんどが針葉樹のせいか原始の森のような感じもしました。針葉樹はダグラスファー、シトカスプルース、レッドシーダー。広葉樹はメープル、コットンツリー、アッシュの3種類があると看板には書かれていました。
でも、そこから少し歩いたところで、私たちは圧倒されました。
まさかこんなすごい森だったとは……。
巨樹があるから訪ねようと思ったのに、世界一かもしれない苔の森に出会うなんて……。
これまで見てきたレインフォレストの苔より長めとか密集率が高いどころの話ではありません。
苔、苔、苔だらけの森。現実の風景というより、端正につくり込まれたディズニー映画の実写版セットのような光景です。これは本物の苔なのかと疑いたくなるほどでした。
そんな苔を盛大に纏った木は、まるで黄色と緑の豪華なローブを着た森の精霊のように見えました。
枝から垂れ下がった苔は長いもので2メートル近くありそうです。
この苔は「オレゴンスパイクモス」と名前こそ苔ですが、本当は苔ではなくヒゲカズラの一種だそうです。触れると意外に硬くしっかりとしています。養分と水分は空気中からもらっているだけです。
最近は園芸店などでエアプランツとして苔が売られていますが、20センチ弱で2,500円ぐらいします。「この森にある量ならすごい金額になるね」と、「世界の巨樹を見に行く会」ツアーのメンバーと話しました。
そして、この森はやはり雨に濡れているからこそ美しい。苔から水滴が落ちるくらいがいちばんいい。訪れるのにベストな天気は雨の日だと実感しました。
世界最大のレッドシーダーもあるホー・レインフォレストは巨木の宝庫
翌日、私たちは再び、ホー・レインフォレストへ。歩いたのはもう1つのショート・トレイルの”The Spruce Nature Trails”です。
ここも同じ針葉樹の温帯雨林なので見た目は同じで、苔のすごい森でした。
ここは太平洋からの湿った空気がオリンピック山脈に遮られるため、年間雨量が4300ミリにも達する場所です。だから雨の日がとても多いのですが、この日もまた小雨が降ったり止んだりの天気でした。
でも、そんな森だからこそ、苔や地衣類が生えて原始のジャングルを思わす光景をつくり出しているというわけです。
トレイルを歩いていると世界最大のレッドシーダーがありました。
幹周り19.4メートル、樹高54メートル。「ダンカン・シーダー」と名付けられていました。
ダンカン・シーダーの威容に圧倒されながら、ふかふかの林床を歩いてさらに進むと、またレッドシーダーの巨樹がありました。
オリンピック国立公園に行こうと決めたときに写真で見た木です。
幹の3分の1は倒れているので、相当の樹齢の古木だと思います。
長く生きてきたものの逞しさを漂わせたレッドシーダーでした。
世界最大のダグラスファーとスプルースがあるクイノートル・レインフォレスト
そして、最後はクイノールト・レインフォレストへ。
ホー・レインフォレストよりは小規模ですが、樹齢400年クラスの巨樹が林立する森はやはり見応えがありました。
そして、ここには世界最大の2種類の巨樹があるとパンフレットには書いてありました。
巨樹を見つける度に私たちも幹周りを計測していきました。
温帯雨林は地衣類などによって腐敗するために森には多くの養分があります。倒木も若木を育てる栄養豊かな地面の役割を果たしています。
そのため、レインフォレストには倒木更新といって、倒木の上に並んで生えている木をよく見ました。

レインフォレストの地面もまた養分が豊富
すると、「世界一”The Largest in the world”」と書かれた看板を見つけました。
こちらがダグラスファー(モミ)とスプルース(シトカトウヒ)の巨樹です。スプルースについてはカナダのクイーンシャロット諸島でこれより太いものを見たので、本当かどうか少し疑問ですが……。
それでも指折りの巨樹であることには間違いありません。どちらの木も樹高50メートルは超えていそうなので、高さではその樹種で世界一なのかもしれません。
巨樹を求めて訪ねた結果、もちろん巨樹には会えました。
そして何より、いままで見たことのない苔だらけの森に遭遇できました。
SNSに写真を投稿すると、「それはどこの森? 行きたいです」との反響がすごかったです。
映画『もののけ姫』のモデルになった苔たっぷりの森がある屋久島。それに魅了されて屋久島に移住した友人までもそういうのですから、苔の見事さでいえば世界一だと思います。私たちも何度も行きたい森の1つになりました。
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