『星の王子さま』に登場する奇妙な樹形のバオバブの木。どこで生まれて何種類あるのか? 見に行くのにオススメの場所は? 日本でも育てられるの? バオバブについての疑問をQ&A形式でまとめてみました。
Q1. とにかくバオバブが見たいという人が行くべきオススメの場所は?
美しいバオバブの風景が見たいならバオバブのサンクチュアリ「バオバブ・アベニュー@ムルンダバ」
もっとも有名なバオバブの観光地はアフリカ・マダガスカル島の中西部にある海岸の街ムルンダバです。
グランディディエリというバオバブの中でも背が高くなる種類が立ち並ぶ「バオバブ・アベニュー」の写真はマダガスカルあるいはバオバブ好きな人なら一度は目にしたことがあると思います。
開けた風景の中に、スーっと背の高いバオバブたちが並んでいる風景はなかなか見応えがあります。
時間帯としては朝夕がオススメ。昼間はコントラストが強くなるので写真撮影にはこの時間帯がいいです。朝はシラサギが集団が飛んで来ることもありますし、夕日に染まるバオバブは本当に美しいです。
ただし、夕方のほうが混みやすいので、その意味では朝のほうが静かで撮影しやすいかもしれません。
また、年に寄りますが、雨季(11〜3月)にはホテイアオイが咲く池も現れます。
バオバブの美しい風景を見たいならここがベストです。バオバブ・アベニューは有名なので行きやすいですし、近くにはインフォメーション・センターもできました。
ムルンダバのバオバブ・アベニュー
樹齢約300年
幹周り最大約9m
樹高30mのバオバブ
並木道の全長約260m
アクセス / マダガスカルの首都アンタナナリボからムルンダバへは国内線で約1時間。バオバブ・アベニューまではクルマで1時間。
世界一のバオバブにして、世界最大の巨木「サゴーレ・バオバブ@南アフリカ」
南アフリカ北部のジンバブエ国境に程近いリンポポ州サゴーレには、世界最大のバオバブの木があります。
バオバブの樹種の中でももっとも太く成長するグランディディエリという種です。
世界の巨樹を見に行く会で測定したところ、この木はギネスブックで樹幅世界一とされている「トゥーレの木」(メキシコ)よりも大きいことがわかりました。
それについての記事はこちらでご覧ください。
トゥーレの木は幹周り45メートルで、このサゴーレ・バオバブは幹周り48メートルでした。
つまり、世界の巨樹を見に行く会の実測では世界一太い巨樹になります。
とてつもなく巨大なバオバブはまるで「登っていいよ」というふうに分岐した幹を地面まで伸ばしています。
近くには先住民の小さな集落がありますが、彼らは樹齢3,500年であると信じています。
先住民の多くはバオバブには先祖の霊が宿っていると信じていて、この木は神聖な儀式の場所とされています。
世界一ですから、もちろん大迫力の大きさです。
じつはリンポポ州ヴェンダにサンランド・バオバブという幹周り45.1メートルのバオバブがありました。アメリカの雑誌で「世界ナンバーワンの太さ」として表紙を飾った木です。
ここから3時間半(クルマで3時間)ほど南下したところにありました。
残念ながらこのサンランドのビッグバオバブは2016年に倒壊してしまいました。南アのリンポポ州はバオバブの宝庫ですが、ここ数年、バオバブの謎の枯死が続いています。
一説には、地球温暖化が原因ともいわれています。
それでもこのあたりは世界でも有数の巨大なバオバブが見られるところなので、とにかく大きなバオバブが見たいなら、ここを訪れることをおすすめします。
南アのサゴーレ・バオバブ
推定樹齢1,200年
幹周り48m
樹高16m
所在地 : 南アフリカ・リンポポ州サゴーレ(マシシ)
アクセス / 南アフリカのヨハネスブルグ空港からはクルマで6時間半。N1、R525経由で北へ575キロ。手前の街ツィピセからはクルマで10分。北東へ7.6キロ。
樹皮が破れそうなほど太っちょやユニークな樹形が見たいなら「バオバブの群生地@ムルンベ」
ユニークな樹形のバオバブを見たいなら、バオバブ・アベニューのあるムルンダバから200キロほど南下した海沿いの街ムルンベへ行くといいです。
ムルンベには空港はありますが、現在は陸路での移動のみが可能です。Google Mapで調べると東へ大きく弧を描いて1,255キロ、クルマで22時間という進路が出ますが、私たちが行ったときはムルンダバとムルンベの中間の街マンジャを経由して行きました。
それでもまる1日は移動日になってしまいます。もちろん、4WDのクルマとガイドは必須です。
ムルンベから行くアンダバドアカとアンドンビリーはマダガスカルで最も巨大なバオバブが集まる地域です。行くのは大変ですが、バオバブ好きなら絶対ここは訪れるべきです。
「妊婦のバオバブ」と呼ばれているアンドンビリーのバオバブ。妊婦のお腹のように膨れていることから付けられた名前らしい。現地語では「ベブーカ」といって聖木として崇められています。
アンドンビリーはムルンベから北へ50キロほど。未舗装のガタガタ道を行くのでかなり大変です。走行中に天井に頭をぶつけそうになったり、クルマが故障したりと大変でした。
それでもここは絶対オススメ。
妊婦のバオバブの近くにある現地の言葉で「ツィタカクイケ(神聖な木)」と呼ばれる巨大なバオバブ。この木の近くには幹周り20メートルを超えるこんなのがたくさんあるんですから……。
この辺りには民家や集落はなく、見渡す限りバオバブのブッシュだらけです。
しかも、ぽっちゃりしたユニークな樹形ものが大半です。おもしろくて巨大なバオバブを見たい方はぜひ、ムルンベで2日は過ごしてください。

アクセス / かつてはムルンダバからムルンベへの国内線がありましたが、現在はないようです。ムルンダバからムルンベは直線距離で200キロ。Google MaPだとこのように東へ迂回して1255キロと出ますが、私たちはマンジャ経由で移動。それでも移動には1日かかりました。アンタナナリボの旅行会社などでムルンベ行きのツアーを含めたアレンジを頼むのが安全です。
Q2. バオバブは1種類だけですか? それとも何種もありますか?
バオバブは世界中に9種類あるといわれています。
そのうちの8種類はマダガスカルにあるといわれ、アフリカ大陸に1種類、オーストラリアに1種類分布しています。

ちなみに、バオバブの属名(学名のうちの前半)の”Adansonia”とは、マダガスカルの植物をたくさん発見したフランスの植物学者アダンソンに由来します。
ではまず、マダガスカルに分布する樹種から見ていきましょう。
マダガスカル島北部の海沿いのブッシュの中に育っています。
石灰岩上に自生する木は比較的細く、しばしば大枝が横に広がりT字型の姿になります。
6月にユリのように半開した花をつけます。
マダガスカル島北部の渓谷などで見られます。溶岩台地や石灰岩の台地を好み、樹形は一般の木とそれほど変わりません。
最も古い種という説もあります。
フランス人ペリエリーによって発見され、この種名が付けられました。
12月ごろ、白っぽく半開する花をつけます。
マダガスカル島北部。サンビラノ川とラヌマラザ(夢の川)に挟まれた川岸沿いの森林に分布します。
北部の海岸地帯、石灰岩土壌などに生えています。
ディエゴスアレス湾のマングローブの海岸で見ることができます。
3月ごろ、赤橙色の半開の花が咲きます。果実は4月です。
西部の水辺や砂地に生育しています。
水分条件のよい場所では樹高20メートルに育ちます。スマートな樹形が多く、バオバブの中で最も背が高くなる樹種です。
フニィよりもふた回りほど大きな実をつけ、平開する白い花を6月ごろに咲かせます。
西部から南部のラテライト土壌に分布します。
見た目はフニイやグランディディエリに似たタイプも多く、枝を広げている木が多い。
半開する赤橙色の花を1〜3月ごろに咲かせます。
西部から南部の乾燥地帯のブッシュに生育しています。
地面に直接、トックリを置いたような面白い樹形が特徴です。
半開する赤橙色の花を3〜4月ごろに咲かせます。
「アモーレ・バオバフ」と呼ばれているフニイは変わり種。ムルンダバのバオバブ・アベニューの先にあり、人気のバオバブの1つです。
バオバブの中で最も太くなる樹種です。
アフリカ大陸とマダガスカルに分布します。マダガスカルは北部の街ディエゴスアレスとマジュンガに2本あるだけです。そのため、この樹種はアフリカから人の手によってもたらされた可能性が高いと考えられています。
花期は11〜1月。白い大きな花を咲かせます。
オーストラリア北西部のアウトバック(辺境の地)に生育している樹種です。赤土の土壌です。
この辺りはアボリジニの人々の居住区で、牧草地や牧場が広がる風景の中に比較的に小さめのバオバブがたくさん分布しています。
鳥やワラビーなどの動物の生息地なので、彼らが実を食べ、川のそばや山の上などタネがさまざまな場所に運ばれています。思いも寄らないところにまでバオバブが生えている。そういう面白さが風景から読み取れます。
有名なのはダービーの町の南にある”Boab Prison Tree”と呼ばれているバオバブ。ボアブ(バオバブ)刑務所という名前の通り、1800年代に強制労働させるために誘拐されたり、拘束されたアボリジニの人々を閉じ込める牢屋として使われていました。
推定樹齢1,500年、幹周り15メートル。
『マダガスカル異端植物紀行』湯浅浩史(日経サイエンス社)
『森の母バオバブの危機』湯浅浩史(NHK出版)
『地球遺産 巨樹バオバブBAOBAB』吉田繁(講談社)
Q3. バオバブの故郷はどこ? いったいどこで生まれどこに育っていますか?
「バオバブのルーツはどこか」
この答えを解く鍵は3つあります。
それはマダガスカルの生物相と、ゴンドワナ大陸、バビロフの「多様性中心地説」です。
マダガスカルはアフリカ大陸の東、インド洋上に浮かぶ島です。
南北1,600キロ、東西の最大幅580キロ、面積は58.7万平方キロと日本の約1.6倍。グリーンランド、ニューギニア、ボルネオに次ぐ世界で4番目に大きな島です。

Google Earth Proより
アフリカとの距離はもっとも近いところで400キロ。位置的にも近いことからマダガスカルの生物相はアフリカ大陸に似ていると思う人がほとんどだと思います。
ですが、意外にもマダガスカルの全動植物の80%はこの島の固有種です。
その代表的な固有種がワオキツネザルやアイアイなどの原猿類です。
世界中で発見されているカメレオンの3分の2もマダガスカルの固有種です。
ランの種類が多いことでも知られていて1200種以上発見されています。
なかでも「このランの蜜を吸う長い口を持った蛾がいるはずだ」とダーウィンが予言した距(きょ=蜜がしまってある管の部分)が長い着生ラン「アングレカム・セスキペターレ」は有名です。
バオバブの木が属するキワタ科の植物がたくさん見られるのもマダガスカルの特徴です。
ほかにもマダガスカルでしか見られない動植物はたくさん存在します。
この島は世界のどこにも見られない生物の宝庫です。
では、どうしてこのような独自の進化を遂げたでしょう?
この生物進化の謎はマダガスカル島誕生の地質学的な歴史をたどることで解けてきます。
5億7,500万から2億4,700万年前の古生代にあった巨大な大陸です。
その南半球に存在した南極、アフリカ、オーストラリア、南米、インドなどがひとかたまりになった超大陸のことです。
このゴンドワナ大陸の中心に位置していたのがマダガスカルでした。
1億6,000万年前ごろにアフリカ大陸から分離し,8,000万年前にもインドとも切り離されます(6,500万年前の地殻変動によってアフリカ大陸と完全に分かれたという説もあります)。
中生代にアフリカと離れて以後、独自の変化を遂げたと思われています。
このゴンドワナ大陸をキーワードにすると、アフリカ、アジア、オーストラリア、南米に見られるマダガスカルとの動植物との共通性が理解できるともいわれています。
その一例として、バオバブと同じキワタ科のパキラ属やセイバ属などが南米に生育していますし、キワタ属はインドに分布しています。
バオバブはマダガスカルとアフリカ、オーストラリアに見られますが、その種類は前述した通り、マダガスカルに8種類とその数が圧倒的に多いです。
Q4. 「バオバブ」という愉快な名前は何語? どういう意味なんですか?
バオバブという木の人気の秘密は一度見たら忘れられない奇妙な樹形。大きくてユーモラスで、「upside-down ttree(逆さまの木)」とも呼ばれる個性的な姿のせいでしょう。
巨人が木を引っこ抜いて、逆さまに地面に刺したともいわれています。
『星の王子さま』にイラスト付きで登場するというのも理由の1つだと思いますが、バオバブ人気を盛り立てているのは「バオバブ」という名前にもあるのではないでしょうか。
「バ・オ・バ・ブ」という響きはちょっとほかの木にはない親しみやすさやユーモアが感じられます。
初めて名前を聞いた人が「えっ、バブバブですか?」とか、「バブブ? バブブオ?」というふうにほとんど正しい名前が言えないのもなんとも面白いです。
いったいこんな面白い名前を誰がつけたのでしょうか?
1592年にイタリアの薬草家アルピノ(Prospero Alpino)がエジプトの市場でbu hobabが売られていると書き残しています。バオバブはエジプトに分布しないのでアフリカから持ち込まれたのでしょう。
「ブー・フブーブ(bu hobab)」は果実が多いまたはタネが多いという意味のアラビア語のbu hibに由来し、ブー・フブーブからバオバブに転じたといわれています。
バオバブ(baobab)という名前は1511〜17年にかけて北アフリカを旅したモロッコのレオ・アフリカヌス(Leo Africanus)が最初に使ったともいわれています。
彼の旅行記『アフリカの歴史と地誌』は1526年に完成。1550年にイタリア語版、1660年に英語版が刊行され、のちに『アフリカ誌』の著名で広く知られるようになりました。
ただし、バオバブというのは英名です。
じつは、バオバブの繁殖地では「バオバブ」とは呼ばれていません。
マダガスカルでは「レニアラ(森のお母さん)」とか、それが詰まって「レナラ」と呼ばれています。
オーストラリアでは「ボアブ」と呼ばれています。
アボリジニのおばあさんに聞いたところ「ボアブ」には意味がないそうで、一説にはバオバブを短縮してこう呼び習わされるようになったともいわれています。
アフリカでは「ウムコーモ」、「クーカ」、「ムブユ」、「ボッキ」、「シラー」、「トウェガ」などで国によってさまざまな名前で呼ばれています。
9種類あるバオバブの学名について前述していますが、属名(学名の前半部分)のアダンソニアは18世紀にセネガルのバオバブを調査したフランスの植物学者ミッチェル・アダンソン(Michel Adanson)に由来します。
そのあとに続く種小名のグランディディエリは19世紀のフランスの探検家アルフレッド・グランディディエ(Alfrerd Grandidier)から命名されました。
グレゴリーというのも19世紀のオーストラリアの探検家サー・グレゴリー(August Charls Gregory)から付けられました。
ペリエリもその地のバオバブを調査した探検家の名前です。
変わり種はディギタータで、葉が子どもの手のように見えることから付けられました。
ザーやフニーという種小名はなんだかニックネームのようで親しみやすいですね。
いずれにしろ、「バオバブ」と誰かが口に出すたびになんとなく楽しくなる。そんな素敵な名前がこの木を人気者にしているようです。
Q5. バオバブには花がありますか? どんな花が咲きますか?
9種類あるバオバブの花は、白花か赤橙色か、半開する筒咲きか平開かで大別できます。
白花は普通、夜に咲き、赤橙色の花は昼咲きでユリの花に似た甘い香りがします。また、開花期がズレています。
アフリカ大陸に分布するディギタータの花は1月に咲きます。
白い花が下向きに平開します。夜咲いて朝には落ちてしまいます。
夜に咲くこの花はほのかに芳香があり、コウモリが花粉を媒介しています。
ナツツバキに似た花ですが、直径15〜20センチ近くあってふた回り大きいサイズになります。
バオバブ・アベニューなどに生育しているグランディディエリの花はまったく違う花です。
ほとんどおしべだらけのように見える花でこちらも夜に咲くようです。たくさんのおしべの中から飛び出すようにあるめしべが特徴です。
落ちた花はすぐに茶色くなってしまいます。
同じ白花ですが、半開するように横向きで咲くのがオーストラリアのグレゴリーです。
花の直径は15センチほどとこちらも大きめの花が咲きます。
以下、半開する赤橙色の花を見ていきましょう。
マダガスカル北部に分布するマダガスカリエンシスの花です。
6月ごろに開花しますが、花は20センチ以上ありました。赤に近い鮮やかな色はブッシュの中でとても目立ちます。
ザーとフニイの花はほぼ同じ時期(1〜3月)に咲きます。
ザーはマダガスカリエンシスとほば同じサイズですが、フニイは花弁が短いです。
半開する赤橙色や黄橙色の花はガクがくるくると巻くのが特徴です。
バオバブの花はとても大きくて印象的なので、開花期を狙えるのなら、その時期に訪れることをオススメします。
Q6. 巨体なのに枝の数が極端に少ないのには理由がありますか?
巨人が木を引っこ抜いて逆さまに地面に刺した「upside-down ttree(逆さまの木)」とも呼ばれる理由。それは、幹の上部に枝が固まり、広がりが少ないせいでしょう。
それは葉っぱが少ないことも意味します。それに比べて幹は巨大です。
じつはバオバブは自分で葉を少なくて、幹を膨らませています。
それがバオバブのサバイバル戦略なのです。
植物は、蒸散作用といって葉から水蒸気を出しています。
それは根から水を吸い上げるシステムを活性化するためで、その水は光合成を行うための原料として必要なものです。
葉の葉緑体で光合成を行なって養分としていることは中学生のときに習いましたよね。
蒸散作用と光合成について、ここで簡単に復習しておきましよう。
つまり、葉がたくさんあれば、水をたくさん得ることができて、光合成も盛んになり、養分がたくさん得られるということになります。
ということは、栄養分が多く得られれば幹は大きく成長していくということになります。
でも、バオバブは葉が少ないのでこの法則には当てはまりません。
葉が少ないのに巨体である謎。その謎を解く鍵は3つあります。
1つ目は、葉が多いと蒸発する水分も多くなるので、生き残るために葉をわざと少なくしているのです。
バオバブは乾燥地に生える木ですから、もともと根から吸い上げる水分には恵まれていません。にもかかわらず、葉からどんどん水蒸気を出してしまったら、枯れてしまうことになります。
だから、枝を少なくして、短くしながら、葉を少なく保つ必要がありました。
そのため、バオバブは自分で下のほうの枝を落としながら大きくなり、あんな樹形になります。
でも、葉緑素が少なくなれば、養分を得るための光合成があまりできません。その問題を解決するために、バオバブは樹皮下に秘密を隠しています。
薄く樹皮を剥がしてみるとわかりますが、すぐ下から緑色が現れます。
幹全体が葉緑素で覆われていて、樹皮下で光合成が行われている。これが2つ目の鍵です。
半年以上も続く乾季の間、落葉しながらも、エネルギー補給できるのはこのように巨体全体に葉緑素が存在するからです。
そして、3つ目の鍵は幹の内部構造にあります。
バオバブの幹は柔らかく、スポンジのような構造をしています。
バオバブの木目は粗く年輪はありません。そのため、柔組織に水分をたっぷりと蓄えることができます。スポンジのような巨体に65%もの水分を含んでいます。
サボテンのような多肉植物と普通の樹木の中間的な植物といえます。
干魃(かんばつ)の際には切り倒して牛の飼料と水分補給に充てたというのもうなづけます。
乾燥に強いのは地上部の保水性だけでなく、根も肥大して貯水できるようになっています。
バオバブの巨体は、それ自身に独自のエネルギー代謝システムを隠しているというわけです。
【まとめ】巨体なのに枝葉が少ない理由
2. 足りない葉の代わりに葉緑素を補充するために、樹皮下を葉緑素で覆っている
3. 年輪はなく木目が粗いためスポンジのような構造。65%は水分。根にも貯水している
Q7. バオバブは王子さまの星を壊滅させるほど大きくなる悪い木ですか?
「おーい、みんなバオバブには気をつけるんだぞ」
サンテグジュベリの童話『星の王子さま』の中で、サハラ砂漠に不時着した飛行士はこう叫びました。
王子さまの星にある悪い種。それがバオバブの種で、ほうっておくと星一面にはびこり、星を破裂させるほど巨大になる。だから、小さいうちに引っこ抜かないといけない。そう書かれています。
でも、それは童話の中のお話です。
サンテグジュベリはセネガルに育っている巨大なディギタータを見て、「星を壊滅させるほど巨大になる悪い木」というお話を創作したのでしょう。
でも、現実世界のバオバブはまったく異なります。
世界最大の南アのバオバブもそうですし、マダガスカルのムルンベの木も聖木として崇められています。
存在そのものが神さまのような役割を果たしています。
「サクレ」と呼ばれる聖なる木で、マダガスカルではこの木にお供えして、シャーマンに頼んで子宝や病気の回復を祈ってもらいます。とても大事にされていて、勝手に近づいてはいけない木もあります。
具体的な利用として目にしたのはバオバブの樹皮を屋根材として使用している家でした。
剥いだばかりの樹皮を天秤棒に担いでムルンダバの市場へ持っていくという村人に会ったこともあります。
バオバブの根元近くに剥いだ跡があるのはこのためで、人々は木にダメージを与えない程度にうまく樹皮を剥ぐそうです。
樹皮は裂いてロープにして牛の手綱や魚網に使います。ゴザや楽器の弦にも用いるそうです。

樹皮でつくったゴザの上で遊んでいた子どもたち
樹皮は薬としても優秀で、マラリアや下痢止め、解熱・解毒、食欲不振、腰痛などに利用されています。
葉は喘息、利尿剤、強壮剤、熱病、下痢・赤痢、結膜炎などに使われ、根はマラリアや強壮剤に……。果肉は火傷や結核、果皮は傷、種子は虫歯、歯周病、マラリア、はしか、胃炎に使われるというからほとんど万能薬です。
葉は食用としても食べられていると聞いて、若い葉をインスタントラーメンに入れて食べたら少し粘り気があってとても美味しかったです。お米が主食というマダガスカルでは雑炊に葉を入れて食べてもいます。
子どもたちが好きなのはバオバブの果肉で、実の硬い果皮を割ると、種子を包むクリーム色の果肉があります。口に含むと、少し酸っぱいサツマイモのような味でこれがオヤツにちょうどいい。果肉を水に溶かしてジュースにして飲んだりもしています。
タネは食用油にしたり、髪油にします。
村に行くと、姉妹でバオバブ油を使って、髪を結い合っているのをよく見かけました。
果肉やタネを取り除いた実の外側も捨てたりせずに、食器として利用しています。
大きなバオバブは中がウロになっているものが多く、水の貯蔵庫や穀物倉庫などに利用されています。
大木の少ないマダガスカルでは日除けにもなります。木材としては利用できませんが、暮らしにとても役立つ木です。
マダガスカルでのバオバブ利用法は、アフリカやオーストラリアでも同じです。
とくにキンバリーのアボリジニの人たちはボアブの種,葉,樹脂,根を重要な食料として大切に扱ってきました。乾燥する前の果肉はやはりオヤツのようにしてそのまま食べていました。
干魃(かんばつ)にはアボリジニの人は繊維の多い枝や根を噛み,貴重な水分を摂取します。マダガスカルでは牛の飼料や水分として利用し、アフリカではゾウが水分補給にと樹皮を剥いで食べます。
最近は、実の殻の上に複雑な絵をナイフで刻み込んで工芸品として売られています。お土産物としてマダガスカルでもオーストラリアでもかなり人気があります。
というわけで、現実のバオバブは素晴らしく役に立つ「とても良い木」です。
Q8. バオバブの木を育ててみたいのですが、日本でもうまく育てられますか?
不思議な樹形のバオバブを自分の家でも育てたいと思う人は結構いるようです。
その証拠に、インターネットでもバオバブのタネが売られています。
ただし、バオバブはほかの植物のように単純にタネを土に蒔くだけでは芽生えません。
私もタネから育てているので、その方法を紹介しますね。
まずは売られているタネになるまでの過程を見ていきましょう。
①実を割る
実を割ります。乾燥した状態のほうが割りやすいです。
②果肉を洗い流す
果肉をできるだけ細かくしたあとで、中のタネが見えてくるまでていねいに水で洗い流します。
③タネをきれいにする
果肉が取れにくい場合には、しばらく水に浸けて果肉をやわらかくしてから、指やブラシなどできれいにします。
ここまでが売られているタネになるまでの過程です。
タネから育てる場合には以下を参照してください。
④タネに刺激を与える
人肌ぐらいのお湯に半日ほど浸けます。時間の経過とともにぬるくなってくるのでときどき40度くらいのお湯を足してください。実際の繁殖過程に近づける作業で、動物のお腹に入っているような状態を再現します。
⑤切れ目を入れる
タネのくぼんだヘソのような部分にハサミなどで1ミリほどの切れ目を入れます。切れ目を入れるとタネの厚い殻が破れやすくなります。
⑥タネを蒔く
種まき用の土などにタネを埋めて薄く土をかけます。蒔きどきは春から夏がいいですが、梅雨が明けてからのほうがタネが腐りにくいです。
⑦発芽する
その年の気候や場所によって異なりますが、早ければ1〜2週間でふた葉が出始めます。
夏以外は水のやり過ぎに注意し、冬は室内に置いてください。
せっかくタネを買ったのにうまく発芽しなかったという人はだいたい④タネに刺激を与えると⑤切れ目を入れるを行なっていないようです。
そこはバオバブが自然の中で芽生えるために必要な過程です。動物がタネを食べるとタネには傷がつき、半日ほどはお腹の中にいます。その過程が④と⑤になりますので、忘れずに行ってください。
オーストラリアでのグレゴリー種の発芽の様子です。
タネからまずモヤシのような根が出て、1カ月ほとでふた葉の中から多数の葉が出てきます。
ちなみに、根の白い部分をアボリジニの人々は食べていたそうで、ピーナツのような味がします。
海外ではバオバブを盆栽のように仕立てるのが流行っています。そんなふうしても育てられるような比較的育てやすい木です。
あなたの家でもぜひ不思議な樹形のバオバブを育ててみてください。
もし、育てるのが面倒だなぁと思われる方は鉢植えも売られていますので、若木から育ててみるのもオススメです。
Q9. バオバブの木を日本で見ることができますか?
日本には、温室の中でバオバブを育てている植物園がいくつもあります。ぜひ見に行ってみてください。
至近距離で幹だけでなく、葉や花をじっくり鑑賞することができますのでオススメです。
新潟県立植物園
東京都
神代植物園
東京農業大学バイオリウム
夢の島熱帯植物園
愛知県
豊橋総合動植物公園のんほいパーク
京都府
京都府立植物園
大阪府
大阪市立大学理学部附属植物園きさいち植物園
三重県
赤塚植物園
広島県
広島市植物公園
山口県
ときわミュージアム・世界を旅する植物園
高知県
高知県立牧野植物園
沖縄県
海洋博公園熱帯ドリームセンター
このほかの植物園でも、温室内でバオバブを育てているところはあると思いますので、植物園に出かけられるときはチェックしてみてください。
バオバブの名前の付いた会社やレストラン、バー、美容院なども日本にはたくさんあります。
バオバブの雰囲気が感じられるかもしれませんし、バオバブ好きな人に会えるかもしれないので出かけられると面白いかもしれません。
というわけで、バオバブは日本で見ることができますし、バオバブ好きな人はたくさんいるということになりますね。
『マダガスカル異端植物紀行』湯浅浩史(日経サイエンス社)
『森の母バオバブの危機』湯浅浩史(NHK出版)
『地球遺産 巨樹バオバブBAOBAB』吉田繁(講談社)
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