バオバブ

ギネス公認を超えた! バオバブが世界一太い木と判明

バオバブ

ギネスブックに世界一と公認されているのはメキシコの「トゥーレの木」。けれども私たちはそれを凌ぐ世界一の幹周りを持つバオバブを発見しました。南アフリカの小さな村にひっそりと立つ驚愕の巨樹を紹介します。写真提供 / 写真家・吉田繁(世界の巨樹を見に行く会)

ギネス公認の木の幹周りを計測

トゥーレの木の学名はMexican Bald Cypress。ヌマスギの仲間で水を好む

トゥーレの木の葉

推定樹齢2,000年らしい瘤

 

 

 

 

 

 

 

 

ギネスブックに「樹幅世界一の木はメキシコのオアハカ州にあるトゥーレの木で82年に地上から1.5メートルのところで周囲が35.8メートルあった。しかし、一般には太い木の代表はアフリカのバオバブの木で幹の周囲が54.5メートルのものがある」という記述を見つけました。

これを見たときに、私はメキシコとアフリカに行かなくてはと思い立ちました。それには2つの理由があります。

1つは、巨大な「トゥーレの木の正確な幹周りを知りたい」ということ。幹周りは一般的に地上1.3メートルの高さで測定します。

幹周り測定法(環境省自然環境局・生物多様性センター『大きな木が待っている!』より抜粋)

 

でも、ギネスブックには1.5メートルで測った数値しかありません。同じ高さで測定した幹周りでないとほかの巨樹たちと比較できないからでした。

2つ目の理由。それは「アフリカのバオバブの木で幹の周囲が54.5メートルのものがある」なら、どうしても探してみたいと思ったからでした。

まずは所在地が明確なメキシコのトゥーレの木に向かいました。

右がトゥーレの木。ここはオアハカの観光名所で公園として整備されています

訪れる前から、木の回りには鉄の塀があり、近づいたり触ったりできないことはわかっていました。なので、事前にオアハカ市長に手紙を書きました。「木を大切にしているグループ」として認めていただき、塀の中に入り幹周りを測る許可をもらいました。

当日はこの木の保護活動をしている「木の友だち協会 (Asociación de Amigos de los Árboles)」の方々が手伝ってくださいました。

木の保護のため緑の柵内は立ち入り禁止

多くの観光客の皆さんがいる前で柵内に入るのは気が引けました。それでも、トゥーレの木の幹周りをどうしても知りたくて、私たちは緊張しながらも入念に幹周りを測定しました。

世界の巨樹を見に行く会で計測中。凹凸が激しい場合は凹部分はメジャーを少し凹ませる程度にする

その結果、トゥーレ木の幹周りは45メートルでした。やはり、地上から1.5メートルの高さで測った数字とは大きく異なりました。また、この木は下に灌漑施設を設けるなどして人工的に保護されているので順調に成長していたのかもしれません。

巨樹の講演会で話すときに45メートルの紐を持っていきます。その紐で円をつくって太さを体験してもらいますが、あまりの大きさにいつも驚かれます。体験してみたい方は一度、ご自宅でやってみてください。ただし、ワンルームだと入りきれませんが(💦)……。

55m級の巨大なバオバブを探して

ギネスブックに記されていた「アフリカにある幹周り54.5メートルのバオバブ」探しのため、私たちはマダガスル島を訪ねました。8種類もの樹種があるためバオバブの起源の地ともいわれているからでした。

固有の原猿類が多いことでも知られているマダガスカル

独自の進化を遂げた固有の動植物にあふれるマダガスカルにはユニークな樹形のバオバブがたくさんありました。けれども島内を巡りましたが、幹周り30メートルを超える巨樹にはなかなか会えませんでした。

そのため私たちはアフリカ大陸へと足を延ばすことにしました。アフリカ大陸には8種類のバオバブのうちでもっとも巨大に育つディギタータAdansonia gdigitataという種類がたくさんあるからでした。

アフリカではどこへ行ってもいちばん大きい木がバオバブだった

アフリカの代表的な風景。野生動物の保護区が多い

ゾウだらけのジンバブエの国立公園

アフリカ大陸で最初に訪ねたのはジンバブエでした。ここに有名なバオバブの木があるという噂を聞いたからでした。

それがゴナレゾウ国立公園ですが、首都ハラレからよりもモザンビークや南アフリカに近い場所に位置します。最初はハラレ国際空港からクルマで移動しましたが、とても遠かったのを覚えています。道もあまり整備されていませんでした。

ゴナレゾウ国立公園は動物の保護区にもなっているリゾートです。ゴナレゾウとはゾウがたくさんいるところという意味。ジンバブエでも「象」は日本語と同じ「ゾウ」というのだそうです。ジンバブエのショナ語と共通の言葉があるなんて驚きですね。

ここにはインパラ、シマウマ、キリン、水牛、カバなどたくさんの野生動物が棲んでいます。

シャドリック・オフィスと呼ばれるかわいそうなバオバブ

ちょっとショックだったのはここの有名なバオバブというのがとても可哀想な木だったこと。じつはここにはもともとサイがたくさんいましたが、全滅しました。というのも密猟者が獲り尽くしたからです。サイの角は精力剤として中国などではとても需要があります。

樹高27メートル、推定樹齢は3,000年。内部は8畳ほどの完全な空洞になっていて、密猟者シャドリックが隠れるにはもってこいでした。なんだかとても痛々しく見えるバオバブでした。

ゾウは乾季に水分補給のためにバオバブの樹皮を食べる

アフリカ大陸、とくに保護区や動物の多い地域では幹の下の方が剥がされているバオバブがほとんど。それは乾季になると、たっぷりと水分が含まれたバオバブの樹皮をゾウが好んで食べてしまうからです。

シャッドリック・オフィスの樹皮が剥がれているのもゾウに食べられたせいだと思いますが、穴はシャドリックがあけたもの。彼はここをオフィスにして穴から銃を向けてハンティングをしていました。3度も逮捕されるまで続けたそうです。

そんな不名誉な使われ方をした可哀想なバオバブでしたが、広大なこの国立公園には不思議な樹形や巨大なバオバブがたくさんあります。

国境近くのとても辺鄙な場所にもかかわらず、プールがあったり、お料理もとても美味しいホテルです。昼間は暑いですが、夜は涼しい風が吹くので、部屋にはエアコンは必要ありませんでした。

撮影から戻って涼しいプールサイドでビールを飲むのは最高

高台に建つコテージの部屋から美しい夕日が見える

体長10センチ。世界最小のミミズクもいた

とにかく快適な国立公園で居心地もとてもよい小さなコテージホテル。夕食は宿泊客全員が大テーブルを囲み、会話しながら食事を楽しみます。ワインもグラスが空きそうになるとついでくれる、いわゆる飲み放題(笑)です。

広大な国立公園内にはもっともっと大きなバオバブがありそうでしたし、私たちは翌年再び、ここを訪れることにしました。

2度目は南アからゴナレゾウへ

2度目にゴナレゾウ国立公園を訪れる際は、南アフリカの首都から向かうことにしました。前述通り、ゴナレゾウは南アとの国境近くに位置していたからです。そのため、私たちはヨハネスブルグでクルマとドライバー、ガイドを手配しました。

訪れたのは雨季の始まりの11月。スコールが降り始めていて、ジンバブエ国境の手前に位置するツィピセからの未舗装路で私たちのレンタカーは案の定スタックしました。

待機していたレッカー車。右が私たちのドライバーさん

この時期にはお決まりのことなのか、道の先にはレッカー車が待機していたので、引っ張ってもらい抜け出すことに成功。でも、道はどんどん川のようになっていきます。これ以上は進めないだろうと思った矢先に今度はパンクしました。

ガイドは20代の女性でドライバーはかなりのご年配です。道路も雨もますますひどくなりそうなので、「今日はやめましょう」というと彼らは「アフリカでは何事もネバーギブアップです」とにっこりしながらガッツポーズするのです。

そうして、土砂降りの中でも嬉々としてタイヤ交換を始めました。その明るさに私たちも飲み込まれるように一気にポジティブになり、あきらめないことにしました。

南アからゴナレゾウに向かうと決めた理由はもう1つありました。ガイドになってくれた女性のお父さんが昔、ツィピセからの途中の道で「ビッグツリー」という巨大なバオバブを見たことがあると教えてくれたからです。

でも、その先も道はわかりにくく、何度も途中の村で聞いては「知らない」といわれてしまいます。そして、私たちが落胆の表情を浮かべる度に、ドライバーとガイドさんは「ネバーギブアップです」と笑いかけてくれました。

かなり古い看板。なぜか逆さまに付けられていた

そうして3時間かけて私たちはとうとう「ビックツリー」があるという村を見つけました。不思議にもそのときには雨も上がっていました。クルマから降りて歩いていくとそこはものすごいブッシュ。でも、この先には巨大なものがあるという濃厚な気配が漂っていました。

「なんだかすごい気配するけど、なんだろう」とやぶをかき分けていくと忘れされられたように古ぼけた小さな看板にぶつかりました。そして、その先に、これまで見たこともない巨大なバオバブが待っていました。

まさかこんな巨大な木だったとは……。

あまりの迫力にバオバブを前に私たちは呆然としました。

早速、いつものように地上1.3メートルの高さで幹周りを測定しました。結果は48メートル。

54.5メートルではありませんでしたが、メキシコのトゥーレの木(幹周り45メートル)を凌ぐ太さ。世界一太い木といっていいと思いました。

本当にあきらめなくてよかった。南アフリカからの道を選んでよかったと思いました。全員が想定外の大きさのバオバブの発見に大興奮だったことは言うまでもありません。

世界一は南アに2本存在した

ギネスブック公認であり、多くの人が世界一太い木と思っているよりも大きなバオバブがあることを雑誌や写真集で発表すると、そこに行ってみたいという方から連絡をいただきました。そのため、私たちは再び、南アのジンバブエ国境に近い小さな村に出かけることにしました。

2度目の訪問ではりっぱな看板が立てられていた。訪れる人が増えたのかもしれない

本当に小さな村ですが、その近くには有名な動物保護区「クルーガー国立公園」があるのでそこにも寄ることにしました。

そんな旅程を企画しているときにアメリカ在住の友人から連絡がありました。「世界一太い木としてバオバブの木が雑誌の表紙になった」ということでした。もしや、私たちが出会ったバオバブかと思ったら、それは異なる木でした。

違うバオバブだけどかなり大きい。しかも、一説によると推定樹齢6,000年とも書かれていました。

調べてみるとBig Treeの比較的近くにあることがわかりました。Big Treeがあるのはリンポポ(Limpopo)州ですが、ここはバオバブ天国でたくさんのバオバブがあります。このバオバブもリンポポ州でした。私たちはこちらの木も訪ねることにしました。

行ってみるとこの木はレストランを営んでいる方の庭にありました。しかも、内部の空洞はバーとして利用されていました。

確かにこのバオバブも大きい。果たして、どちらが大きいのでしょう。

ハヤる気持ちを抑えながら、私たちは入念に測定しました。凹凸が激しいので計り方がむずかしかったですが、全国巨樹巨木林の会の計測スペシャリストもいたのでかなり正確に測れました。その結果、幹周りは45.1メートル。トゥーレの木とほとんど変わらない太さでした。

その後、もちろんBigTreeも訪問しました。こちらはあいかわらず静かな村はずれにありましたが、真新しい看板が立てられたり、周囲のやぶはきれいに刈られていました。訪ねてくる人が多くなった様子でした。

ただし、アメリカの雑誌の表紙になったバオバブのほうが断然、訪問客が多く、「世界一大きなバオバブ」と認知されています。でも、そのほうが正真正銘の世界一が守られていいなと思っています。

いずれにしろ、この2本のバオバブが末長く無事で、幹周りを更新していてくれますように……。

 

 

 

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